NKC開発株式会社|ショックプロテクター
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現在、日本全国で年間約1万人の尊い人命が交通事故で失われている。すべてドライバー個人の責任とするのではなく、事故多発地帯を中心とした道路施設に車両衝突緩衝機能を導入することは、尊い人命を悲惨な衝突事故から保護する意味で重要であり、安全で安心できる道路環境の実現には欠かすことができない。日本道路公団では、高速道路分岐帯および料金所前への車両用衝突緩衝装置の設置が検討されており、将来、ETC(料金自動徴収システム)の普及に伴い、そのような装置の大きな需要が見込まれている。そこで、低コストかつ高性能で安全性の高い車両用衝突緩衝装置の共同開発および実用化を行った1)。図1にショックプロテクターの構造を示す。ショックプロテクターは、緩衝材(発泡スチロール)と慣性質量体(鉄板)より構成されている。車両侵入方向に対して、複数の緩衝材が慣性質量体を介して配置されているため、車両衝突エネルギーが緩衝材を介して慣性質量体に伝搬・散逸していく。本機構により、緩衝材単体では衝撃吸収性の低かった衝突の初期段階にも、十分に衝撃エネルギーが吸収でき、緩衝性能の大幅な向上に成功した2)。さらに、ショックプロテクターは、慣性質量体底部の長穴に、地面に両端が固定された二本のワイヤーロープを通している。長穴寸法とワイヤーロープとの位置関係を適切に調節することにより、車両進入角度に応じた慣性質量体の回転移動が可能となる。これにより、オフセット衝突による車両の被害を最小限に抑えることができる3)。また、ワイヤーロープにより、慣性質量体の左右上下方向は拘束されているので、慣性質量体の飛散による二次災害の心配はない。平成12年11月、国土交通省土木研究所にて車両衝突実験が行われた4)。実験では、サイズ、質量ともに一般的な車両(ニッサンパルサー)を時速100kmでショックプロテクターに衝突させ、車両重心位置に発生する加速度を計測し、その最大値、および、OIV(乗員頭部衝撃速度)、車両損傷度などから、性能が評価された。ここ で、OIVとは、乗員頭部が前方に0.6m(ステアリング位置を想定)移動したときに速度を示し、その値が小さいほど乗員の安全性が高いことを意味する。実験の結果、すべての評価基準を満足し、日 本道路公団から高い評価を得ることができた。結果の詳細を表1に示す。それにより、高速道路において多くのショックプロテクターが設置(図2) されるようになった。1) 中嶋隆勝、車両用衝突緩衝装置(ショックプロテクター)の開発、商工振興、  NO.628,15-16(2002.6)2) 特願平 11-344399「車両衝突緩衝体」3) 特願2001-255407「車両用衝突緩衝装置」4) 財団法人土木研究センター、ショックプロテクターの性能確認に関する衝突実験・  解析業務報告書(2000.12)高速道路に設置されたショックプロテクターに車両が衝突した事例を紹介する。平成14年3月9日、ショックプロテクター先端部に軽自動車(ワゴンタイプ、車両質量: 860kg、ホイールバース:2000mm)がおよそ時速100km(数値シミュレーションにより推定)で衝突したが、乗員の生命は守られ、車両のホイールベースがほとんど変化しない程度の衝撃に抑えられた。軽自動車は一般車両と比較して脆弱であり、また、ワゴンタイプは車室空間が最前に位置するため、全面衝突に対する乗員の危険性が高い。これにより、ショックプロテクターの安全性の高さが実証された。平成14年5月16日、ショックプロテクター先端右側面に普通自動車(車両質量:1560kg)がおよそ時速130km(事故申告)で衝突した。スリップ痕より、車両はショックプロテクターにより減速された後、本線へ復帰し、そのまま走行を継続したものと推測された。 結果として、乗員は無傷で、車両は走行に支障がない程度の損傷であった。これにより、慣性質量体の回転移動の仕組みが十分に機能し、車両侵入角度を有する衝突にも対応できることが実証された。

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